大判例

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横浜地方裁判所 昭和51年(ワ)2079号 判決

原告

飯田一枝

被告

合資会社文明堂

【主文】

一  被告は、原告に対し、金一一二二万三三七七円及び内金七〇万〇一七七円に対する昭和五三年七月一日から、内金一〇五二万三二〇〇円に対する昭和五六年四月一八日から、それぞれ支払済までの各年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告に、その一を被告に負担させる。

四  この判決は右第一項にかぎり仮に執行することができる。

【判旨】

三そこで、原告の右損害について検討する。

<証拠>を総合すると、次のとおり認定することができる。

1 原告は、大正一五年一〇月三〇日生れの女性である(この点は当事者間に争いがない)が、本件事故により頸椎捻挫、左上肢、左膝関節挫傷、足部挫傷の傷害を受け、右頸椎捻挫を除くその余の右傷害は、右事故後約三週間のうちに完治したが、右頸椎捻挫は右期間内に完治せず、いわゆるむち打ち症の症状を呈し、原告は、昭和五一年八月二五日から昭和五二年四月三〇日までの間、後記(月別表(H)の1ないし9)認定のとおり、分須整骨師の出張治療を受け、鳥山整形外科、川崎幸病院、自衛隊中央病院、銀座祐千へ通院して治療を受け、堀之内宏太医師の往診治療を受けた。

また、原告は、昭和五二年五月一日から同五三年六月三〇日までの間、ほぼ原告主張((D)の10ないし23)のとおり、足しげく堀内クリニック、銀座祐千に通つて治療を受け、また、同クリニックからの往診を受けた。

原告は、なお、昭和五三年七月一日以後も、少くとも同五六年六月末日までの間、右堀内クリニック、銀座祐千に通つて治療を受けた。

2 原告は、右頸椎捻挫により、本件事故後の当初は局所が腫脹し、頭部痛、頭重感を覚え、意識朦朧状態も出現し、その後、めまい、はきけ、易興奮性も加わり、これらは原告の自律神経失調症をも招来し、情緒不安定になり、また、うつ状態にもなり、自殺企図を考えることもあつたが、前記の通院治療等(原告は、精神的に不安定な状態にあつたので、自衛隊中央病院の担当医師堀之内宏太は、入院という環境の変化は、原告にとつてかえつてマイナス面の方が大きいと考え、原告に入院をすすめなかつた)を続けた結果、昭和五二年四月頃には、原告の精神不安定、易興奮性、うつ状態も漸次軽快し、原告に笑顔も現われはじめ、原告の自殺企図の考えも消失した。しかし、原告のめまい、頭重感、耳鳴等の自覚的愁訴は、なお続いた。

3 本件事故後の当初から、原告の脳にも頸椎にも重大な器質的損傷はみあたらず(ただ、原告の頸部に経年性の変形性背椎症はみられるが)、原告の右自覚的愁訴は、もともと心因性の強いもので、この愁訴が長く続くのは、原告に前記の自律神経失調症があるのが一つの原因であり、これまた、心理的、神経的要素の強いものである。

4 自衛隊中央病院は、昭和五一年九月七日から同五二年四月五日まで原告の治療を行い、同日最終の診断書(甲第一三号証)を発行したが、この診断書は、「頸椎捻挫、めまい・流涙・頸部の重圧感を訴える。神経ブロック・薬物療法にて愁訴軽快している。」と診断し、更に、後遺症内容として「眼瞼下垂・頭重感・めまい感などの後遺症あり」と診断し、更に、この後遺症の軽減される見込みは無いと診断しており、原告はこの後約七ケ月間は前記祐千の長生療術を受けに通うほかは病院に通院していない。

5 原告は、同五二年四月頃以降も、相変らず、めまい、頭重感等の自覚的愁訴を訴え続け、前記認定のとおり、長生療術の施療、堀内クリニックへの通院を続け、堀之内医師の往診もうけた。

6 昭和五四年四月一二日に、原告は、鑑定嘱託による鑑定医から、原告のめまい、頭部痛、易興奮性、情緒不安定に顕著な改善がみられる旨、原告に忍耐力も出てきて仕事に対する意欲もみられるようになつてきた旨、また、自己の精神力を昂揚するような適当な運動療法、作業療法を行えば、原告の精神的不安定も消失する可能性のある旨診断されている。

かように認定することができ、これに反する証拠はない。

四右の認定事実、とくに右認定にかかる原告の頸椎捻挫、すなわち、むち打ち症の内容、程度、通院、治療の状況からすると、右むち打ち症自体の症状固定の時期は昭和五二年四月末日頃とみるのが相当であり、その後は右むち打ち症の後遺障害としてとらえるのが相当であり、これの等級は、自賠法施行令別表の第一二級一二号程度のものと判定し、これの継続期間は、前記各証拠及び本件弁論の全趣旨によつて認められる原告の体質、気質の個人差等も勘案し、右の症状固定日から七年と評定するのが相当である。

また、前記三認定事実からすると、原告の本件むち打ち症は、重大な器質的損傷を伴うものではなく、自覚的愁訴を主とする心因性の強いものであり、この愁訴が原告に永く続くのは、原告にこれまた心因的要素の強い自律神経失調症が本件事故によつて誘発されたことが一つの原因になつていることが解り、右各心因的要素、前記原告の気質、体質を考慮し、かつ、しかし右各心因的要素の発現自体は本件事故によつて招来されたことをも勘案し、本件事故の右むち打ち症の後遺障害に対する寄与率は八〇パーセントと考量するのが相当である(右むち打ち症の症状固定時までの治療費等の損害についてまで、右寄与率を適用することは、本件頸椎捻挫それ自体の治療費や、本件事故による原告のその余の傷害の治療費等までも削ることになるので、相当でない。)。

五右四の認定、説示を考慮に入れた上、原告の項目別損害の主張を検討する。

<中略>

15 休業損害等 合計六九六万三二〇〇円

前記三冒頭掲記の各証拠及び弁論の全趣旨とこれによつて成立を認めうる甲第八号証によると、原告は、本件事故当時訴外八光工業株式会社の代表取締役として、主として同社のため土地、建物管理の業務を行い、同社から給与所得として一か月四〇万円の支給を受けていたが、本件事故後前記原告の症状固定時まで、本件受傷により全く右業務が行えなかつたので右金員の支給を受けることができなかつたことが認められ、この認定からすると、原告の右症状固定時までの休業損害はこれを三二〇万円と算定するのが相当である(算式は、40万円×8=320万、但し右症状固定時までの期間を八か月とみる。)。

前認定、説示の原告の後遺障害の等級、その継続期間、寄与率を考慮して、原告の本件後遺症による逸失利益は、これを三七六万三二〇〇円と算定するのが相当である{算式は40万円×0.14(労働能力喪失率)×12(月)×7(年)×0.8(寄与率)=376万3200円  但し、本件において、この金員に対する遅延損害金の起算日が昭和五六年四月一八日と主張されていること、後遺症継続期間を症状固定日から七年と制限したこと等に鑑み、右算式においては中間利息の控除を考慮しないことにする。}

右両者を合算し、原告の休業損害金は、合計六九六万三二〇〇円となる。

(海老塚和衛 菅原敏彦 氣賀澤耕一)

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